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月刊誌ナイルス・ナイル
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ナイスルナイルはよりよいライフスタイルを提案するカルチャーファッション誌です。
世界的に活躍する日本人画家、彫刻家などのアーティストをピックアップ。
このコラムは2005年12月号より2007年9月号までに連載した記事と現在執筆のもの。
2006.5月号 NO.112 カバーフォト:MASAHIRO GODA---------発行:ナイルスコミュニケーションズ
[登場アーティスト]
杉本博司(No.107 )
篠原有史男(No.108 )
黒田アキ(No.109)
荒川修作(No.110)
中島由夫(No.111)
安田侃(No.112)
小林孝宣(No.113)
外尾悦郎(No.114)
ジミー大西(No.115)
松山修平(No.116)
草間彌生(No.117)
村上隆(No.118)
森万里子(No.119)
奈良美智(No.120)
川俣正(No.121)
千住博(No.122)
新宮晋(No.123)
リー・ウー・ハン(No.124)
絹谷幸二(No.125)
横尾忠則(No.126)
大竹伸朗(No.128)
ヘルマン・ニッチェ(No.176)

イタリア発、地球の涙 ー 安田侃(やすだかん)

 コーヒーが好きだ。一日5杯は飲む。だからといってとくに豆や煎れ方にこだわりがあるわけではない。ドリップ式でどこにでも売っているような普通の豆で煎れるだけだ。でも最後に簡単なオマジナイをかける。すると、とがってピリっとした舌触りがまろやかで深みのある美味しいコーヒーに変身するから不思議である。
 そのオマジナイはイタリアにいた頃知った。なんのことはない、ほんのひとつまみの塩を入れ、お湯を注ぐのだ(もちろん塩の入れ過ぎにはご注意!)。
 ナポリのエスプレッソはうまい、とイタリア人は声をそろえていう。その秘密はサーレ、塩だ。ナポリなど海に近い街の水には塩分が多い。だからミラノなど内陸の街のバールでエスプレッソを頼むと、コーヒーの粉にひとつまみの塩を加えるのをよく目にする。
 安田侃。イタリア在住の彫刻家。1945年北海道生まれ。東京芸術大学大学院終了後、イタリア政府国費留学生として渡伊。ローマのアカデミア(美術大学)でファッチィーニ氏に師事。
 73年Gallery88(ローマ)での個展を皮切りに毎年のように世界各地で展覧会を開催したり野外彫刻を発表している。国内では軽井沢セゾン美術館、札幌芸術の森美術館、東京国際フォーラム、直島コンテンポラリーアートミュージアム、酒田市美術館などに彫刻作品を制作。海外ではブリッジウォーターホール(イギリス)、オーロラ・プレイス(オーストラリア)、ガラチーコ(スペイン)、ボーボリ庭園(イタリア)など。最近ではトリノオリンピック記念野外彫刻展(イタリア)に出品するなど、ヨーロッパではとくに人気の現代彫刻家である。
 92年には芸術選奨文部大臣新人賞受賞、94年国際彫刻展賞(イタリア)、95年世界のピエトラサンタ賞(イタリア)、01年プッチーニ財団プッチーニ特別賞(イタリア)、02年第九回井上靖文化賞、第十五回村野藤吾賞(対象作品アルテピアッチァ美唄)、詩のアルピ・アプアーネ特別賞(イタリア)、03年トスカーナ州特別賞受賞など受賞歴も数多い。
 現在、フィレンチェから少し西に行ったところにある、かつてミケランジェロがダビデ像を製作したことでも有名なピエトラサンタにアトリエを構え、主に大理石とブロンズ彫刻を制作している。この周辺はカラーラ、マッサなど彫刻材のみならず極上の建材用大理石の世界有数の生産地でもある。
 ピエトラサンタのアトリエから創り出される安田侃の作品のオリジナリティは、その研ぎすまされた形状から発せられる圧倒的な存在感と、大地に絶妙なバランスで屹立しようとする緊張感だ。地球のカケラのような巨大な大理石から形成されたそのフォルムを前に、見るものは地球の進化をたどるような静謐な感覚に一瞬、めまいさえ覚えることだろう。
 そして何と言っても最大の特徴は、そのボリュームにある。40トン以上の石塊から削り出されていく彫刻群。まずその巨石探しから作品作りは始まる。石灰岩が変成作用を受け再結晶した大理石は結晶質石灰岩とも言うそうだが比重が2.5前後、つまり40トンぐらいになると2.5メートル四方ぐらいになりマンションの小部屋に匹敵するほどの巨石になる。しかし石には目という割れやすい弱い方向がある。その上、表面がいくらキレイでも内部に小さなすき間や節などがないとも限らない。そうなると完成直前のノミの一振りですべてが無に帰することもあるのだ。
 ゆえにそれだけの大きさの石塊を中まで見極める彫刻家の眼力も不可欠だ。もちろん無事完成したとしてもそれを展示会場まで無傷で運ぶということも忘れてはならない。その制作にかかる期間すべてが緊張の連続で、地球規模の仕事と言っても過言ではない。
 愚問かもしれないが、安田氏はなぜこんな多大な労力と時間を費やしてまで作品を作らなければならないのだろうか?
 世界的芸術家イサム・ノグチ氏が生前、制作のため訪れたピエトラサンタで安田氏と出会っている。そのときの印象を書き残しているが、抄訳すると「芸術にはふたつあって、ひとつは芸術のための芸術。もうひとつは安田侃のような人智を越え無意識から生みだされた未知の感性である」と。
 彫刻家は来る日も来る日も、白く輝く地球のカケラと孤軍奮闘、石ノミを一振り一振り打ち下ろしながら、未知の感性、言い換えれば自分である証をカケラの中から取り出そうとしているのではないだろうか。それは地球のカケラに隠れたほんの少しのしょっぱい涙かもしれない。それが削り出されたとき作家ひとりだけの涙ではなくなり私たち人類共有の感性に昇華する。
 尖って殺伐とした今日この頃。コーヒーと塩のようにそんな世の中を少しだけまるく楽しい世界に変えてくれることを願い安田侃は、今日も地球の涙を探し続けるのだろう。
※安田侃ホームページ  http://www.kan-yasuda.co.jp/
[掲載写真]
1. 「天泉」個展「大理石とブロンズ」出品作 ヨークシャー彫刻公園(イギリス・1994-95年)
2. 「意心帰」個展「フィレンツェ 街における彫刻」出品作(イタリア・2000年)

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